大判例

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大阪地方裁判所 昭和24年(ワ)989号 判決

原告 貴志ハナ

被告 江東万五郎

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告が原告に対し大阪市東成区片江町二丁目六十四番地上木造瓦茸二階建南向四戸建家屋一棟のうち西より二軒目の一戸を明渡すことを命ずる。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並に仮執行の宣言を求め、其の請求の原因として「原告は昭和二十年六月七日前記家屋一戸を被告に対し賃料を一ケ月金二十六円(其の後一ケ月金百六十二円五十銭に変更)毎月末日持参拂と定め、なお賃借人が右家屋を他人に轉貸し、又は同居人をおいた場合は直ちに契約を解除することができるとの特約をつけて賃貸したが、被告は原告の承諾なく昭和二十三年八、九月頃、右家屋の二階全部を訴外後歌江に轉貸したので、原告は被告に対し、昭和二十四年三月二十六日附翌二十七日着の書面を以て、右契約を解除したから、被告に対し右家屋の明渡を求める。」と述べた。<立証省略>

被告は請求棄却の判決を求め、答弁として「被告は原告から其の主張の家屋を其の主張の日、主張の賃料の定で賃借した事実及び昭和二十三年九月一日以降訴外後歌江が右家屋に現住する事実並に原告主張の如き解除の意思表示が到達したことはいずれもこれを認めるが、その余の原告主張の事実はこれを否認する。右契約には原告主張の如き特約はつけられていないし、また後歌江は被告の子が妻を娶るまでという約で本件家屋に同居せしめ、被告方家族の一員として右家屋を階上階下の別なく使用せしめ被告が同人の世話をしているものにすぎず、この家屋を、同人に轉貸したものではない。」と述べた。<立証省略>

三、理  由

原告が昭和二十年六月七日、被告に対し、其の主張の家屋一戸を賃料一ケ月金二十六円などの約で賃貸したことは当事者間に爭がなく右契約につき原告主張の特約がつけられてあつたことは成立に爭のない甲第二号証によりこれを認めることができる。

そして原告がその主張のとおり被告に対し右賃貸借を解除する旨の意思表示をしたこともまた被告の爭わないところであるから、以下右解除の意思表示によつて本件賃貸借が終了したかどうかを判断する。

(一)被告が訴外後歌江をして昭和二十三年九月一日以降右家屋に居住せしめていることは被告の認めるところであつて、証人後歌江の証言及び被告本人訊問の結果によれば、被告が右後をして居住せしめるに至つたのは友人山口に依頼せられ、当時戰災に遭つて住宅に困つていた後歌江に同情し、被告の子が妻を娶つたら直ちに出るという約束でそれまでの間一時的に右家屋二階に住わせたものであり、同女から電気瓦斯の代金の一部負担として毎月金五十円宛を受取つている以外には賃料なども受取つていないことが認められるけれども、被告が右訴外人を扶養し家族の一員として居住せしめているとの被告主張の事実はこれに沿う証人後歌江の供述は措信せず、他にこれを認められる証拠がなく、反つて被告本人訊問の結果によつてもその然らざることが認められ、なお轉貸借たるためには物の一部たると全部たるとを問はずまた賃料の授受を要しないから、以上認定の事実を総合すると、被告は右訴外人をして單に自己の賃借権の範囲内で適法に居住せしめているにすぎないと認めることができず結局本件家屋の二階を同人に轉貸したものと判定せざるをえない。

(二)しかしながら民法第六百十二條が物の賃借人に対しその物を賃貸人の承諾なく他に轉貸することを禁じ、賃借人がこれに反したときは賃貸人においてその賃貸借を解除することができることを規定しているのは、本來賃貸借がその物の使用方法などに関する賃借人賃貸人間の信頼関係に基いて成立しているのであるから、この物を他人に轉貸するときは右信頼関係を破壊し賃貸人に対する不信行爲となるために、その賃借人に対する制裁として賃貸人に賃貸借の解除権を與えたものであるところ、住宅は今次戰爭の結果多数滅失しその復興も遅々として進捗せず現に極度の逼迫状態にあるのであるから国民は現に存する建物の範囲内でその最低限度の住宅を確保するとともに互に他のそれをも尊重しなければならず、從つて建物がその使用者の使用状態に比して若干の余裕ある場合その一部を住宅に困つている者に貸與してこれを使用せしめることは、むしろ道徳的に推奬さるべきことであるから、右使用者がその建物を他から賃借している者であり、從つてその一部を貸與することが轉貸借となるときにおいても、その轉貸借によつて建物の使用方法に重大な変化を生じ賃貸人をしてその轉貸借にも拘らず賃貸借を継続せしめることが苛酷であるときとか、その他轉貸借成立の経緯、その内容など自体が賃貸人に対して不信なものであるとか、要するに轉貸借が賃貸人に対する不信行爲であると考えられる場合でない限り、賃貸人は賃借人から轉貸借の承諾を求められたときにこれを拒むことができないものというべく、從つてまた右承諾を求められたと否とに拘らずその承諾のないことを理由として賃貸借を解除することができないものといわなければならない。そうしてこの理は轉貸借及び賃借讓渡を禁じ、またそのいずれにも該当しない同居をも禁ずるとの特約が賃貸借につけられている場合に、賃借人がその特約に反したときにもまた同様である。

(三)いまこれを本件について考えてみると、被告が訴外後歌江に対し本件家屋の二階を轉貸するに至つた経緯及びその轉貸借契約の内容などはさきに認定したとおりであつて、(なお右認定に反する証人大津米吉及び原告本人の各供述部分は前掲各証拠に照してこれを信用しない)この点に関する限り賃貸人たる原告に対する不信行爲となるものとは認め難く、また証人後歌江の証言及び被告本人訊問の結果によると被告は右轉貸借の前後を通じ本件家屋をその住宅とする傍らその営む靴商の仕事場として使用し、また轉借人後歌江はその住宅としてのみ右家屋の二階を使用していることが認められ、從つて家屋の全体に対する使用方法としては右轉貸借によつても変更なく、その他右轉借人の使用方法が特に宜しきを得ないことなどによつて賃貸人たる原告をして右轉貸借にも拘らずその賃貸借を維持せしめることが却つて苛酷となるというような事情も認められないから、結局原告のなした前記解除の意思表示は本件賃貸借を終了せしめる効力なく、從つて本件賃貸借は右意思表示によつては終了していないといわねばならない。

以上のとおり原告の解除の意思表示によつては本件賃貸借は終了していないから、その終了したことを理由とする原告の本訴請求は失当であるので、これを棄却すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 竹内貞次)

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